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改革にともなう「痛み」の果てに次なる繁栄が約束されると説き伏せられ、「構造改革」や緊縮財政を押しつけられた国々のなかには、前述したように改革とともに市場にアクセスすることもままならない状況に追いやられるものがある。
そうした状況を生み出したのがアメリカ文明だとすれば、「痛み」に耐えかねた人々から反撃を受ける可能性は、今なお伏在している。
アメリカ主導のグローバリゼーションの一面だけを取り上げて批判しても仕方がないだろう。
グローバリズムの効果にはさまざまなものがある。
賃金の安さから中国に工場が移転する傾向は曲がり角を迎え、逆に急成長した中国企業のなかから世界的な規模の大企業を買収するものまで現れた。
中国における賃金も格安ではなくなりつつあり、今後は工場の立地を日本国内に戻す方が有利になる場合も増えるだろう。
中国の場合は、グローバリゼーションが経済発展にプラスの効果をもたらしている。
ところが一方で、アフリカのように停滞が続く経済を抱える地域もある。
その国々では、貧困層は人口爆発とともに拡大している。
こうした光と影の双方を視野に納めつつ、J・Sは「グローバリゼーション(そのもの)が悪いのではなくその追求の仕方に問題がある」として、IMFを批判している。
これは、かつて「南北問題」と呼ばれたものとは位相の異なる問題である。
1970年代から80年代初頭あたりまで、貧しい南の諸国が第1次産業に従事し、その産品を豊かな北の国々が消費するというような、南が貧しく北が富むという関係は固定されたままになるとみなされた。
貧しい南の国でわずかな賃金の労働者が採取したコーヒー豆を北が輸入し、オープン・カフェで優雅に飲ここで、日本やアジア諸国の例では、経済が成長の経路に乗るに際し、政府がさまざまな規制を敷きつつ民間部門を誘導するという「開発主義」を採ったことが重要である。
しかもそうした国々においては、中間層が形成された。
中間層は、税を通じた所得の再分配政策の結果としてはぐくまれる。
だがそれだけでなく、工業化もまた中間層の創出に寄与する。
というのも、20世紀前半のFの経営方針が典型的であるように、大量生産によって商品の価格を下げようとするならば、一定の技能を持つ工場労働者を定着させねばならず、そのために正規雇用者の賃金を引き上げる必要があるからだ。
さらに中間層は、生産部門において生み出された商品を大量消費する。
経済発展の当初には生産した商品を輸出によって吸収してもらわねばならないが、発展が自律的なものとなる。
こうした論調を一変させたのが、80年代を通じて続発したアジア諸国の急激な経済発展である。
かつては日本だけが例外的に近代化に成功したもののその他は決して離陸することはないだろうと予測されていた地域から、韓国・台湾・香港といった東アジア諸国がまず急成長を遂げた。
その後を、日本も工場を移転したタイ・マレーシア・インドネシア・ベトナムなどアセァン諸国が追った。
中国はその最後尾についていたが、90年代以降は10%を超える高い成長率を維持し、今や先進国経済を脅かす存在となった。
これらアジア諸国の例から、市場が「南」を貧困にとどめるという説は急速に力を失った。
グローバル化が南北問題解決の切り札と受け止められるようになったのである。
ところがアメリカが中心となって形成した国際経済のルールとしては、開発主義は公式には採用されなかった。
IMFが「構造改革」を採用したからである。
それは開発主義のみならず、経済において機能してきたさまざまな慣行を撤廃することを求めるものであった。
けれども自由化により市場化を浸透させることで、アフリカ諸国までが貧困を脱することができるかといえば、疑問は多い。
開発主義によらずに工業化が成し遂げられるのかというのも疑問だが、市場任せでは中間層が形成されない可能性が高い。
IMFや世界銀行は途上国の経済開発に指導的な役割を果たす立場にありながら、逆に株式市場が主導する先進グローバル経済に途上国を組み込んでしまい、中間層が形成されず離陸もままならない国々を生み出してしまったのだ。
世界銀行のシニア・アドバイザーだったOは、途上国では企業を育てる環境作りのための産業政策や、綿密なケアが必要だと述べている。
従来、各国の経済のみならず文化や歴史にまで通じてそれを行ったのがIMFや世銀のローン・マネージャーであったのに、「民営化・緊縮財政・貿易自由化」などを求めるワシントン・コンセンサスが87年に定着すると彼らは消え去ってしまったと回顧している。
そうした情勢においてアメリカが経済的な正義を逸脱していることは、基軸通貨国であるがゆえに得ている利益を、国際社会に対して応分に還元していないということを意味している。
基軸通貨国であるアメリカは、B・W体制では、景気の悪化した国から輸入することでドルを供給していた。
つまりアメリカは、国際収支の赤字を通じて国際経済にドルを提供してきたのである。
アメリカの国際収支の赤字化が進みすぎると、金とペッグされていた時代には、金に対するドルの供給過剰と信頼低下をもたらす。
ところが金との関係を断ち切ってから以降のアメリカは、ひとり国際収支の制約を気にすることなく経済運営を遂行することが可能になった。
そのうえ諸国がドルを自国通貨に交換するならば、各国通貨の価値は上がるが、それはその国の輸出を困難にする。
そこで各国はドルを自国通貨と交換せず、過剰になったドルでアメリカ財務省の証券や手形の購入に向かった。
こうした事態はアメリカにとって財務省証券を発行しドルで購入するのに等しいから、そうした傾向が定着すると、債務増大には歯止めがかからなくなる。
現在のアメリカが本質的に関心を寄せているのは、基軸通貨国として弱小国の経済を支援することなどではなく、国際収支の赤字を外国から還流したドルで穴埋めすることだ。
そうした「帝国循環」が可能である限り、国際収支の制約から逃れ、好き勝手な経済運営が可能になる。
先に述べたように、他国にとって「帝国循環」に従うことに利益があるか否かは状況による。
だがアメリカにとっては、ドルが基軸通貨であることと帝国循環の維持は表裏一体の関係にある。
そしてその維持は、アメリカの債務は破綻することがないという信頼を諸外国から取りつけて初めて可能になるのだが「信頼」は、経済力だけから生まれるものではない。
そもそもアメリカは国際収支において赤字なのだから、信頼されようもないのである。
それにもかかわらず信頼を受けるには、経済以外の要因が重要になる。
うがった言い方をすれば、アメリカが圧倒的な軍事力を誇示してテロに報復し、英語を国際共通言語として普及させ、新自由主義の経済学を唯一のスタンダードとして留学生に学ばせているのも、そうした信頼を調達するためであろう。
英会話の能力や経済学の博士号に価値があるのは、アメリカが破綻しない限りでのことなのだ。
その点からすれば、テロへの報復は、アメリカにとって必然だったといえる。
アメリカは、他国からの信頼に寄生してきたのだ。
それが現在のアメリカにとっての正義の背後にあるものなのである。
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